持続可能な地域ビジネスへ:自治体職員のための事業性評価と収益設計ノウハウ
地域課題解決型ビジネスの持続可能性を高めるために:事業性評価と収益設計の重要性
地域課題解決型のビジネスを立ち上げ、継続していくことは、多くの地方自治体にとって重要な取り組みとなっています。しかし、良いアイデアや社会的な意義だけでは、事業を持続させることは困難です。特に、行政主導で事業を進める場合、限られた予算や補助金に依存してしまうケースが多く見られます。
事業を持続可能なものとするためには、その事業が経済的に自立し、収益を生み出せる構造を持つことが不可欠です。ここで重要となるのが、「事業性評価」と「収益モデル設計」です。自治体職員の皆様が、これらの概念を理解し、自身の担当する事業にどのように応用できるかを知ることは、地域課題解決型ビジネスを成功に導くための重要なノウハウとなります。
本記事では、自治体職員の皆様が地域課題解決型ビジネスにおいて事業性・収益性を検討するための基本的な考え方、具体的なステップ、そして行政実務上の注意点について解説します。
なぜ自治体職員が事業性・収益モデルを考える必要があるのか
「地域課題解決が目的だから、収益は二の次では?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。確かに、地域課題解決ビジネスの第一義は社会的な成果ですが、それを継続的に、より多くの地域に展開していくためには、経済的な基盤が必要です。
補助金や委託費だけに頼った事業は、財源の変動によって不安定になりがちです。また、事業に関わる人材のモチベーション維持や、新たな課題への対応力の向上にも、事業が生み出す収益が役立ちます。行政が主導する場合でも、民間事業者や住民と連携し、将来的に自走可能な仕組みを目指すことが、税金を有効活用し、地域活力を高めることに繋がります。
自治体職員が事業性・収益性の視点を持つことは、単なるコスト管理ではなく、事業の将来像を見据え、より戦略的に地域課題解決に取り組むための重要なステップなのです。
事業性評価の基本
事業性評価とは、提案された事業が「成立しうるか」「成功する可能性はどのくらいあるか」を多角的に検討することです。地域課題解決型ビジネスにおいては、社会的な効果(課題解決への貢献度)に加えて、経済的な実行可能性や持続可能性も同時に評価する必要があります。
具体的には、以下の視点が重要になります。
- 市場性(ニーズ): 解決しようとしている地域課題に対して、本当に需要があるか?その課題解決にコストを払う主体(住民、企業、他の自治体など)は存在するのか?
- 実現可能性: 人的資源、資金、技術、地域内の協力体制などを考慮して、計画通りに事業を実行できる見込みはどのくらいあるか?法規制や行政内の調整は可能か?
- 競合環境: 既に類似の取り組みやサービスは存在するか?もしあれば、どのように差別化を図るか?競合と連携する可能性はあるか?
- 収益性: 事業が生み出す収益は、必要な経費を賄える見込みがあるか?将来的に利益を生み出す構造を構築できるか?
- 持続可能性: 補助金終了後も事業を続けられる見込みはあるか?環境変化に対応できる柔軟性はあるか?
これらの視点を整理するために、ビジネスフレームワークの一部を活用することも有効です。例えば、ビジネスモデルキャンバスの「顧客セグメント」「価値提案」「チャネル」「顧客との関係」「主要リソース」「主要活動」「主要パートナー」「コスト構造」「収益の流れ」といった要素を行政の文脈に合わせて検討することで、事業全体の構造と経済性を視覚的に整理できます。
収益モデル設計の考え方とステップ
収益モデルとは、「どのように事業が収益を生み出すか」という仕組みです。地域課題解決型ビジネスの収益モデルは、一般的な営利企業とは異なる多様な形を取り得ます。
地域課題解決型ビジネスにおける多様な収益源の可能性
- サービス利用料/商品販売: 提供するサービスや商品から直接収益を得る(例: 高齢者向け配食サービス利用料、地域産品販売)
- 会員費/寄付: サポーター制度やコミュニティメンバーからの会費、個人・企業からの寄付
- 企業からの協賛/CSR費: 事業の社会性や広報効果に魅力を感じる企業からの資金提供
- 行政からの委託費/事業費: 特定の行政サービスのアウトソーシングを受ける
- イベント収入: セミナー、ワークショップ、地域イベントの参加費
- 広告収入: 地域情報サイトやフリーペーパーなどへの広告掲載
- クラウドファンディング: 不特定多数からの資金調達
- 遊休資産の活用: 公共施設の貸し出し収入など
一つの収益源に頼るのではなく、複数の収益源を組み合わせる「ハイブリッド型」の収益モデルを検討することが、リスク分散と事業の安定化に繋がります。
収益モデル設計の具体的なステップ
- 提供価値とターゲットの再確認: 誰に、どのような価値を提供し、その対価として何をいただける可能性があるのかを改めて明確にします。
- コスト構造の洗い出し: 事業の立ち上げ・運営にかかる費用(人件費、場所代、材料費、広報費、交通費、行政手続き費用など)を具体的にリストアップします。変動費と固定費を区別すると、収支構造がより分かりやすくなります。
- 可能性のある収益源の特定: ステップ1で明確にした提供価値やターゲット、そして行政や地域資源の特性を踏まえ、上記で挙げたような多様な収益源の中から、自身の事業に適用できそうなものを洗い出します。
- 収益源の組み合わせとシミュレーション: 特定した収益源をどのように組み合わせるかを検討し、それぞれの収益源からどの程度の収入が見込めるかを簡易的にシミュレーションします。楽観的なケースと保守的なケースの両方を考えると良いでしょう。
- 持続性と拡張性の検討: 構築した収益モデルが、環境変化や事業規模拡大に対応できるか、補助金終了後も継続できる構造になっているかなどを検討します。
行政職員が収益モデルを考える上での注意点
- 公共性・公平性とのバランス: 特定の民間事業者の利益を不当に害したり、住民間の公平性を損なったりしないよう配慮が必要です。必要に応じて、弁護士や専門家、庁内の法務担当者と連携しましょう。
- 法規制・条例との関係: 事業内容や収益モデルによっては、NPO法、会社法、景品表示法、あるいは自治体の条例などが関わってきます。事前に確認し、必要な手続き(例:法人格の取得、許認可申請など)を把握しておくことが重要です。
- 民間事業者の視点理解と連携: 収益モデルの設計には、ビジネスの感覚が必要です。地域内の民間事業者や、事業計画・資金調達の専門家(中小企業診断士、税理士、金融機関など)の意見を聞きながら進めることが、より現実的な計画に繋がります。彼らのビジネスモデルや収益構造を理解しようと努めることも大切です。
- 住民・議会への説明責任: 税金を投入する事業において、どのように収益を上げて持続性を高めようとしているのか、その計画を住民や議会に分かりやすく説明できる必要があります。丁寧なコミュニケーションと合意形成プロセスが不可欠です。
- 過度な楽観主義を避ける: 特に初めて収益モデルを検討する場合、売上予測などが甘くなりがちです。保守的な視点を持ち、リスクシナリオも考慮に入れることで、より堅実な計画になります。
まとめ:持続可能な地域ビジネスへの第一歩
地域課題解決型ビジネスにおいて、事業性評価と収益モデル設計は、単なるコスト計算ではなく、事業の持続可能性を高め、より大きな社会的インパクトを生み出すための重要なプロセスです。
自治体職員の皆様がこの視点を持つことで、補助金に依存しない、自走可能な事業モデルの構築を目指すことができます。最初は簡易的な分析から始めても構いません。事業の目的(地域課題解決)を見失わず、社会性と経済性の両立を目指し、地域内外の多様な主体と連携しながら、一歩ずつ進めていくことが大切です。
今回解説した内容が、皆様の担当する地域ビジネスを持続可能なものへと導く一助となれば幸いです。