地域資源発見・活用ノウハウ:自治体職員が取り組む地域ビジネスのタネの見つけ方
地域課題解決ビジネスの出発点:地域資源を見つけ、活かすための実践ガイド
地域課題解決型のビジネスを立ち上げ、運営していく上で、その出発点となるのは「地域の可能性」を見出すことです。この可能性は、多くの場合「地域資源」の中に眠っています。しかし、「地域資源」と聞いても、観光パンフレットに載っているような有名なものしか思い浮かばなかったり、どのようにすればそれを地域課題の解決や新しいビジネスに繋げられるのかが分からなかったり、といった課題をお持ちの自治体職員の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
本記事では、地域課題解決ビジネスの「タネ」となる地域資源をどのように見つけ、どのように活かしていくかについて、自治体職員の皆様が実践できる具体的なノウハウや視点をご紹介します。
地域資源とは何か? 多角的な視点を持つ
「地域資源」と一言で言っても、その範囲は非常に広いです。単に美しい自然景観や歴史的建造物だけでなく、地域に根差した産業や技術、そこで暮らす人々のスキルやネットワーク、地域ならではの文化や習慣、さらには行政が持つ情報や制度なども、全て地域資源となり得ます。
重要なのは、これらの資源を「地域課題を解決するための要素」あるいは「新しい価値を生み出すための要素」として捉え直す視点を持つことです。例えば、過疎化が進む地域で放棄されつつある古民家も、リノベーション技術を持つ人材や地域住民のネットワークと組み合わせることで、移住促進の拠点や体験施設といった新たな資源として生まれ変わらせることができます。
地域資源を考える際の具体的な切り口としては、以下のようなものが挙げられます。
- 自然資源: 山、川、海、森林、農地、景観、温泉、希少な動植物など
- 歴史・文化資源: 史跡、伝統行事、伝説、郷土料理、伝統工芸、地域で培われた知恵や習慣など
- 産業資源: 特産品、伝統的産業、地場産業、企業の技術、遊休施設、流通インフラなど
- 人材資源: 専門スキルを持つ住民、熱意あるリーダー、NPO/地域団体、移住者、高齢者の知識や経験、若者のアイデアや活力など
- 技術・知識資源: 大学や研究機関の技術、独自の農業技術、ITスキル、伝統的な技術など
- 社会資源: 地域住民のネットワーク、コミュニティ活動、既存の行政サービス、学校、医療機関など
- 情報資源: 統計データ、アンケート結果、古文書、地域内の各種情報(空き家情報、求人情報など)
- 行政資源: 補助金制度、条例、公共施設、職員の専門知識、各部署の連携力など
これらの資源は単独で存在するだけでなく、互いに組み合わさることで新たな価値を生み出す可能性を秘めています。
地域資源の発掘方法:自治体職員が実践できるステップ
地域資源の発掘は、机上のリサーチだけでなく、地域の中に飛び込んでいくプロセスが不可欠です。自治体職員として、以下のステップを参考に、計画的に資源発掘に取り組んでみましょう。
ステップ1:目的と仮説の明確化 まず、どのような地域課題の解決を目指すのか、どのような分野のビジネスを想定しているのかといった目的を明確にします。これにより、どのような種類の資源に注目すべきかの方向性が見えてきます。「もしかしたら、〇〇という資源が、△△という課題解決に使えるのではないか?」といった仮説を持つことも、効果的な資源探索の手助けとなります。
ステップ2:既存情報の収集と整理 自治体内や地域のこれまでの調査報告書、統計データ、各種計画書、観光情報、地域史、文献などを徹底的に収集し、整理します。これにより、公になっていない情報や見落とされがちなデータの中に、資源のヒントが隠されていることがあります。GIS(地理情報システム)などを活用して、地域内の資源の分布を可視化することも有効です。
ステップ3:現地での五感を使った観察と体験(フィールドワーク) 実際に地域に足を運び、五感をフルに使って観察します。地域の風景、音、匂い、人々の暮らしぶり、使われている技術、古くからある建物や道具、何気なく行われている習慣など、あらゆるものが資源の候補です。地域住民と同じように生活してみる(例えば、農作業を手伝う、地域の祭りに参加するなど)ことで、表面的な情報だけでは得られない深い理解や気づきが得られます。
ステップ4:多様な関係者からの声を聞く(ヒアリング・ワークショップ) 地域の住民、農家、漁師、商店主、企業の経営者、NPOや市民活動団体、学校関係者、歴史や文化に詳しい人など、多様な立場の人々に話を聞くことは、生きた情報を得る上で最も重要です。個人的な経験談や、地域に対する思い、不満、得意なこと、困っていることの中に、まだ知られていない資源や、資源を活かすヒントが隠されています。ワークショップ形式で、地域の未来について共に語り合う場を設けることも、参加者の内なる思いやアイデアを引き出すのに有効です。
ステップ5:隠れた資源の発見と再評価 ステップ1〜4を通じて得られた情報を統合的に分析し、一見取るに足らないと思われているものや、地域の人々にとっては「当たり前」すぎて資源だと認識されていないもの、あるいは「問題点」として捉えられているものを、視点を変えて評価し直します。例えば、急斜面の耕作放棄地は農業には適さなくても、ユニークな景観資源として活用できるかもしれません。高齢化が進む地域でも、高齢者の持つ豊富な知識や経験は貴重な人材資源となり得ます。ネガティブな状況も、課題解決ビジネスの種として捉え直す視点が重要です。
見出した資源をビジネスのタネに育てる考え方
資源を発掘するだけでは不十分です。それを地域課題解決ビジネスの「タネ」として育てるためには、いくつかの考え方があります。
- 資源と課題の結びつけ: 見出した資源が、地域が抱える特定の課題の解決にどう貢献できるかを具体的に考えます。例えば、「豊富な森林資源」と「雇用の減少」という課題を結びつけ、「木材を使った新たな工芸品開発と販売」や「森林セラピー事業」といったアイデアを検討します。
- 資源の組み合わせによる化学反応: 複数の資源を組み合わせることで、単独では生まれ得なかった新しい価値が生まれます。例えば、「古い町並み(歴史資源)」+「空き家(産業資源)」+「地元の料理スキルを持つ高齢者(人材資源)」を組み合わせ、「古民家を改修した地域文化体験型レストラン」を企画するといった具合です。
- 外部の視点を取り入れる: 地域内にいるだけでは気づきにくい資源の価値を、地域外の専門家や都市部の住民など、異なった視点を持つ人から意見を聞くことで発見できることがあります。
- 収益モデルの検討: 資源をどのように活用すれば、持続的に事業として成り立ち、収益を生み出せるのかを考えます。単なるイベントや一過性のプロジェクトではなく、経済的な循環を生み出す仕組みを検討します。
自治体職員が資源発掘・活用に取り組む際の留意点
自治体職員として地域資源の発掘・活用に取り組む際には、行政ならではの立場を活かすとともに、いくつかの留意点があります。
- 行政の情報資産活用: 自治体が保有する各種データや情報を最大限に活用します。関係部署との連携を図り、共有されていない情報へのアクセスを試みることも重要です。
- 既存の制度・事業との連携・調整: 既に実施されている地域の活性化策や補助金制度、関連事業との連携や役割分担を検討します。既存の枠組みに捉われすぎず、新しい視点を取り入れつつも、無駄な重複や摩擦を避ける調整能力が求められます。
- 地域住民や関係者との合意形成・協力体制構築: 地域資源は地域の共有財産であるという意識を持ち、資源活用に関する計画や取り組みについて、関係者との丁寧なコミュニケーションを通じて合意形成を図ります。一方的な計画の押し付けではなく、共に資源を活かすパートナーとして協力体制を築くことが、事業の成功には不可欠です。
- 法規制や条例との関係: 見出した資源やその活用方法によっては、建築基準法、農地法、自然公園法など、様々な法規制や地域の条例が関わってきます。関係部署と連携し、必要な手続きや規制緩和の可能性について事前に確認しておくことが重要です。
- 継続的な取り組みとするための体制づくり: 資源発掘・活用は一度行えば終わりではなく、地域は常に変化しています。継続的に資源を発掘し、磨き、活かしていくための体制を行政内部や地域内に構築していく視点も必要です。
まとめ:地域の可能性を引き出す地道なプロセス
地域資源の発掘と活用は、派手なイベントではありませんが、地域課題解決ビジネスの根幹をなす、非常に重要で地道なプロセスです。自治体職員の皆様が、本記事でご紹介した多角的な視点や実践的なステップを参考に、地域の「当たり前」の中に眠る可能性を見つけ出し、それを地域課題の解決や新しい価値創造に繋げる一助となれば幸いです。
地域資源を深く理解し、地域の人々と共にそれを最大限に引き出す努力こそが、持続可能な地域ビジネスを生み出す確かな一歩となるはずです。