地域住民・団体主導の事業を成功へ導く:自治体職員のための伴走支援実践ノウハウ
地域主体事業への伴走支援:自治体職員に求められる新たな役割
地域課題解決型のビジネスやプロジェクトは、必ずしも自治体が主導する形ばかりではありません。地域住民組織やNPO、民間事業者といった地域内の多様な主体が自らの手で課題解決に取り組むケースも増えています。このような「地域主体」の事業は、地域のニーズにきめ細かく対応できる一方、事業推進や運営のノウハウ、行政との連携方法などに課題を抱えることも少なくありません。
ここで重要な役割を担うのが、自治体の地域振興担当職員の皆様です。事業の直接的な担い手ではなくとも、地域の課題や資源を熟知し、行政のリソースやネットワークにアクセスできる立場から、地域主体事業の「伴走者」として効果的な支援を行うことが求められます。
本記事では、自治体職員が地域住民・団体主導の事業を成功へ導くための伴走支援について、具体的なノウハウや考慮すべき点を解説します。
伴走支援の基本姿勢と役割の理解
伴走支援とは、事業の主体者が抱える課題や目標に対し、外部の視点やリソースを提供しながら、主体者の自走力を高めるサポートを行うことです。自治体職員が伴走支援を行う上で、以下の基本姿勢と役割を理解することが重要です。
- 「主体は地域」という明確な認識: あくまで事業の決定権と責任は地域主体にあります。自治体職員は指示・命令者ではなく、あくまで支援者・協力者としての立場を徹底します。
- 傾聴と共感: 地域主体が何に困り、何を求めているのかを丁寧に聞き取り、その熱意や状況に寄り添う姿勢が信頼関係構築の基盤となります。
- 情報の提供と選択肢の提示: 行政の制度、補助金・助成金の情報、関連する先行事例、専門家の情報などを提供し、地域主体が最適な選択を行えるようサポートします。
- ネットワーキングの支援: 必要な外部人材(専門家、他の地域プレイヤーなど)や関係部署(他課、教育委員会など)との繋がりづくりをサポートします。
- 行政手続きに関する橋渡し: 行政側の論理や手続きを分かりやすく説明し、必要な手続きを円滑に進めるためのサポートを行います。
- リスクの共同検討と助言: 事業を進める上で想定されるリスク(資金、運営、合意形成など)について、地域主体と一緒に検討し、行政の視点からの助言や情報提供を行います。
- 成果の可視化と評価のサポート: 事業の進捗や成果をどのように記録・共有し、次につなげるかを地域主体と一緒に考え、必要に応じて行政の評価フレームワークやデータ活用の視点を提供します。
重要なのは、地域主体の「代理」として事業を行うのではなく、「パートナー」として、彼らが自ら課題を乗り越え、成長していくプロセスを側で見守り、必要な時に適切なサポートを差し伸べることです。
具体的な伴走支援ノウハウ
地域主体事業への伴走支援は多岐にわたりますが、特に自治体職員が強みを発揮しやすい領域に焦点を当て、具体的なノウハウをご紹介します。
ノウハウ1:情報アクセスと提供のハブとなる
地域主体は、必要としている行政情報(補助金、手続き、条例など)や、他の地域での先進事例、活用できる専門家の情報などにアクセスしにくい場合があります。自治体職員はこれらの情報にアクセスしやすい立場にいるため、情報のハブとして機能します。
- 具体的なアクション:
- 事業内容に関係しそうな補助金・助成金、各種制度の情報を行政内外問わず収集し、地域主体に分かりやすく整理して提供する。
- 他の地域で類似の事業がどのように行われているか(成功事例、失敗事例、運営方法など)を調査し、参考になる情報を提供。可能であれば、事例地の担当者や地域主体と繋ぐ。
- 事業の内容に応じた専門家(経営、財務、広報、特定分野の技術など)のリストを作成・更新し、必要に応じて紹介する。(例:商工会議所、専門家派遣制度、大学関係者など)
- 行政内の関係部署との連携が必要な場合に、部署間の橋渡しや情報共有をサポートする。
ノウハウ2:行政手続き・ルールの「通訳」と調整
地域主体にとって、行政のルールや手続きは複雑で分かりにくい場合があります。また、既存の行政ルールが新しい取り組みの障壁となることもあります。
- 具体的なアクション:
- 事業に関連する条例、規則、ガイドラインなどを地域主体にも理解できるよう平易な言葉で説明する。
- 必要な許認可や申請手続きについて、必要な書類、流れ、期間などを具体的に 안내し、作成をサポートする(代行はしない)。
- 既存のルールが事業の支障となる場合、担当課と連携してルールの解釈について調整を図ったり、規制緩和の可能性を行政内部で検討したりする。
- 行政側の懸念点(例:安全管理、公物使用、公平性など)を地域主体に伝え、相互理解を促進する。
ノウハウ3:ステークホルダー間のコミュニケーション促進と合意形成サポート
地域主体事業は、住民、行政、他の団体、事業者など多様なステークホルダーが関わります。それぞれの立場や考え方の違いから、コミュニケーションの齟齬や合意形成の困難さが生じることがあります。
- 具体的なアクション:
- 関係者が集まる会議やワークショップの設定、準備、運営をサポートする。
- 会議のファシリテーション(議事進行、意見の引き出し、論点整理など)を行い、参加者全員が意見を言いやすい雰囲気を作る。
- 異なる意見が出た際に、それぞれの立場を尊重しつつ、共通の目標や落とし所を見つけるための対話を促す。
- 議事録の作成や決定事項の確認をサポートし、情報の透明性を高める。
- 行政内の関係部署や首長部局に対して、事業の意義や進捗状況を適切に報告し、理解と協力を得るためのサポートを行う。
ノウハウ4:事業のリスク管理と持続可能性に関する示唆の提供
地域主体は、事業の情熱はあっても、リスク管理や中長期的な持続可能性について経験が少ない場合があります。自治体職員は、過去の事例や行政としての視点から、リスクの検討や事業性の評価に関する示唆を提供できます。
- 具体的なアクション:
- 事業計画に対して、財務的な持続性(収益モデル、資金計画)、運営体制の安定性、将来的な担い手確保、リスク(法的、安全、風評など)といった観点からの懸念点を率直に伝え、改善に向けた検討を促す。
- リスク発生時の対応策(例:保険加入、連携協定締結、連絡体制構築など)について、地域主体と一緒に考え、具体的なアドバイスを行う。
- 事業の成果指標(KPI)設定や、成果をどのように測定・評価するかについて、行政で使われる手法などを参考に提案する。
- 事業の法人化やNPO化、協同組合化など、事業形態に関する情報を提供し、中長期的な運営体制の検討をサポートする。
伴走支援における注意点
伴走支援は強力なツールですが、使い方を誤ると地域主体の自走力を削いだり、行政への過度な依存を生んだりする可能性があります。以下の点に注意が必要です。
- 「行政の事業」にならない: あくまで主体は地域です。自治体職員が主導権を握りすぎたり、行政の都合で事業内容を大きく変えさせたりすることは避けます。
- 過度な介入をしない: 困っていること、求めていることを明確に聞き取り、それに対して必要なサポートに留めます。何から何まで代わりにやってしまうと、地域主体の成長機会を奪います。
- 責任範囲を明確にする: どこまでが自治体職員の支援範囲で、どこからが地域主体の責任範囲なのかを曖昧にしないことが、予期せぬトラブルを防ぐ上で重要です。連携協定や覚書などで役割分担を文書化することも有効です。
- 「公私混同」に注意: 特定の地域主体や個人を不当に優遇していると見られないよう、公平性・透明性を意識した対応が必要です。支援の内容や判断基準は明確に説明できるようにしておきます。
- 庁内連携を怠らない: 地域主体事業は複数の部署に関わる可能性があります。関連部署と日頃から連携し、情報共有を密にすることで、部署間の縦割りによる停滞を防ぎます。
まとめ:信頼関係を築き、地域の「できる」を引き出す
地域住民や団体が主導する事業への伴走支援は、自治体職員にとって従来の「事業執行」とは異なる能力や姿勢が求められます。事業の成功だけでなく、地域主体のエンパワメント(内発的な力や自信を引き出すこと)を意識し、長期的な視点で関わることが重要です。
地域の主体者との間に丁寧な対話を通じて信頼関係を構築し、彼らが持つ情熱やアイデア、そしてまだ気づいていない「できる」を引き出すサポートを行うことこそが、伴走支援の醍醐味であり、持続可能な地域づくりに繋がる重要な実践となります。
本記事でご紹介したノウハウや注意点が、皆様が地域で奮闘する主体者と共に歩むための一助となれば幸いです。