複数の事業者・団体が連携する地域ビジネス推進術:自治体職員のための共創モデル構築・運営ガイド
はじめに:なぜ今、地域内「共創」が重要なのか
地域の活性化を目指す上で、様々な地域資源やノウハウを結集した地域ビジネスは有効な手段です。しかし、特定の事業者や団体だけが先行し、他の主体との連携が希薄な場合、地域内の分断を生んだり、取り組みが広がりを持たなかったりするケースも見られます。
地方自治体の地域振興担当職員の皆様の中には、「複数の事業者や団体を巻き込みたいが、どうすれば競争ではなく協調を促せるのか分からない」「それぞれが個別に取り組むよりも、地域全体で協力した方が良い結果が出るとは思うが、具体的な推進方法が見えない」といった課題をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
本記事では、地域内の多様な主体が競争関係ではなく、「共創」の関係を築きながら地域ビジネスを推進していくための実践的なノウハウを、自治体職員の皆様の視点から解説します。共通の目標設定から、連携体制の設計、運営上のポイントまで、具体的なステップと考慮すべき点をご紹介します。
地域内「共創」ビジネスの基盤を作る:共通目標とビジョンの共有
複数の主体が連携して一つのビジネスに取り組む上で、最も重要なのは共通の目標とビジョンを明確にし、共有することです。それぞれの主体が個別の目的(例:自社の利益最大化、団体の知名度向上など)だけを追求すると、必ずどこかで利害の対立が生じ、連携が破綻するリスクが高まります。
自治体職員の役割として、まずは地域全体の課題や将来像を丁寧に共有し、そこから生まれる共通の「ありたい姿」(ビジョン)を設定するプロセスを主導することが考えられます。このプロセスには、住民、事業者、NPO、専門家など、多様なステークホルダーに参加してもらい、それぞれの意見や期待を反映させることが重要です。ワークショップ形式での対話や、アンケート調査などを組み合わせることで、形式的な目標設定に終わらず、実質的な共感を伴うビジョンを醸成できます。
共通目標は、可能な限り具体的で、かつ参加者それぞれの活動と関連付けやすいものであることが望ましいです。「地域全体の観光客数を〇%増加させる」「高齢者の見守りサービス普及率を〇%向上させる」など、数値目標(KPI)を設定することも有効です。この際、既存の記事「地域課題解決型ビジネス成果指標(KPI)設定実践ガイド」も参考に、実効性のある指標設定を目指してください。
連携体制の設計:どの「型」を選ぶか
共通目標とビジョンが共有できたら、次に具体的にどのように連携して事業を進めるかの「型」を設計します。連携の形態には、事業の内容や参加主体の性質に応じていくつかの選択肢があります。自治体職員は、それぞれのメリット・デメリットを理解し、最適な形態を提案・調整する役割を担います。
主な連携の型としては、以下のようなものが考えられます。
- 協議会・プラットフォーム型: 情報共有や意見交換が主な目的。比較的緩やかな連携で、参入・退出が容易。事業実行よりも、まずは連携の機運醸成や課題の深掘り(既存記事「地域課題の本質を見抜く実践ガイド」も参照)に適しています。
- 留意点: 意思決定が遅くなったり、具体的な事業実行につながらない可能性があります。運営には事務局機能が不可欠です。
- コンソーシアム型: 特定の事業を共同で実施するために結成される一時的な組織。プロジェクトごとに組成・解散することが多い。事業範囲が明確な場合に有効です。
- 留意点: プロジェクト終了後の継続性に課題が生じがちです。参加者間の役割分担と責任範囲の明確化が重要です。
- 共同事業体(合同会社、一般社団法人など)型: 新たに法人を設立し、事業主体とする形態。より強固な連携と継続的な事業運営に適しています。外部からの資金調達や契約締結なども行いやすくなります。
- 留意点: 設立・運営に手間とコストがかかります。参加者間の出資比率や意思決定方法など、詳細な規約設計が必要です。行政が出資・参画する際の法制度上の留意点も確認が必要です。
- 委託・補助金活用型: 自治体が事業の一部または全体を、複数の事業者・団体からなる連合体に委託または補助金を交付する形態。自治体主導で特定の政策目標達成を目指す場合に有効です。
- 留意点: 対等な連携というよりは上下関係が生じやすく、自律性や持続可能性の観点で課題が生じることもあります。委託・補助金制度設計(募集要件、評価基準など)の透明性と公平性が求められます。
どの型を選ぶにしても、参加主体間の役割分担、責任範囲、収益・費用の分配方法などを明確に定めることが不可欠です。特に収益分配については、競争を生まないよう、共通目標達成度合いに応じた分配や、事業で得た収益を地域全体に還元する仕組み(基金設立など)も検討に値します。
連携推進のための運営上のポイント
連携体制を構築した後も、それを円滑に運営し、共創を継続させていくためには様々な工夫が必要です。
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円滑なコミュニケーションと情報共有: 参加主体間での定期的な情報交換や進捗報告の場を設けることが重要です。対面での会議はもちろん、オンラインツール(共有ドキュメント、チャットツール、プロジェクト管理ツールなど)を効果的に活用することで、地理的な制約を超えてリアルタイムな情報共有が可能になります(既存記事「自治体職員のためのデジタルツール活用術」も参考になります)。自治体職員は、これらのツールの導入支援や、情報のハブとしての役割を担うことができます。
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合意形成プロセスの設計とファシリテーション: 複数の利害関係者が集まれば、意見の相違は当然発生します。重要なのは、その相違を乗り越え、皆が納得できる形で合意形成を図るプロセスを事前に設計しておくことです。意見対立が生じた場合の調整役(自治体職員自身、または外部の専門家)の役割を明確にしたり、特定の意思決定については多数決ではなくコンセンサス方式を採用するなど、多様な手法があります。自治体職員のファシリテーション能力は、このような場面で非常に大きな力を発揮します(既存記事「地域課題解決型ビジネスを円滑に進める」も参考になります)。
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連携のメリットの可視化と共有: 各参加主体にとって、「なぜ連携することが自社(自団体)にとって良いのか」というメリットが常に感じられるようにすることが重要です。単に地域貢献というだけでなく、連携によるコスト削減、販路拡大、新たな技術・ノウハウの習得、リスクの分散といった具体的なメリットを定期的に可視化し、共有することで、連携へのモチベーションを維持できます。
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評価と改善サイクルの確立: 事業の進捗や成果を定期的に評価し、当初の目標に対してどのように進んでいるのか、改善すべき点はないかなどを参加者全体で共有します(既存記事「事業効果を最大化」も参考)。この際、単に事業の経済的成果だけでなく、地域内の連携度合いや参加者の満足度なども評価指標に含めることで、共創モデルそのものの質を高めることができます。
自治体職員が担うべき役割と留意点
地域内共創型の地域ビジネスを推進する上で、自治体職員は単なる補助金交付者や規制者ではなく、多様な主体間の橋渡し役、コーディネーター、ファシリテーター、そして時には制度設計者としての役割を積極的に担うことが期待されます。
- 中立的な立場の維持: 特定の事業者や団体に偏らず、地域全体の利益と共通目標達成を最優先する中立的な立場を維持することが信頼を得る上で不可欠です。
- 粘り強い調整: 利害の対立や意見の相違が生じた際に、根気強く対話を重ね、解決策を模索する調整能力が求められます。
- 行政内部との連携: 関連部署(産業、観光、福祉、都市計画など)との連携はもちろん、議会や首長部局への説明と合意形成も重要なタスクです(既存記事「地域課題解決型ビジネスにおける行政内部の『壁』突破術」も参考)。事業形態によっては、条例改正や特区制度活用なども視野に入れる必要が出てくるかもしれません(既存記事「地域課題解決ビジネスと法制度」も参考)。
- リスク管理: 複数の主体が連携することで予期せぬリスク(例:連携体の内部不正、特定の事業者の撤退による影響など)も生じ得ます。連携協定書などでリスク分担を明確にするとともに、発生時の対応計画を事前に検討しておくことが望ましいです(既存記事「地域ビジネスにおけるリスク評価と対策」も参考)。
まとめ:競争から共創へ、地域に新たな価値を生み出すために
地域内の多様な主体が競争ではなく協調して取り組む「共創型」地域ビジネスは、単なる経済効果に留まらず、地域内の信頼関係構築、人材育成、課題解決能力の向上といった多くの付加価値を生み出します。
本記事でご紹介したように、自治体職員が共通目標・ビジョンの設定支援、最適な連携体制の設計、そしてコミュニケーション円滑化や合意形成支援といった運営上のサポートを担うことで、この共創のサイクルを力強く後押しすることができます。
地域内の多様な力と知恵を結集し、「共創」によって地域課題解決と地域経済循環を高める新たな地域ビジネスを、皆様の手で実現させていきましょう。