地域課題解決型ビジネスの「人財」育成・確保:自治体職員が取り組むべき官民連携アプローチ
地域課題解決ビジネスを支える「担い手」の重要性
地域課題解決型ビジネスは、地域の抱える社会課題を行政や既存の枠組みだけでは解決しきれない状況において、新たな発想や多様な主体との連携によって事業として成立させるものです。このようなビジネスを持続的に推進していく上で不可欠な要素の一つが、事業の実行を担う「人財」の存在です。
しかし、多くの地域で、アイデアはあるものの、それを具体的に形にし、継続的に運営していくスキルや意欲を持つ「担い手」が不足しているという課題に直面しています。特に地方自治体の職員として、地域課題解決を推進する立場にある皆様も、この担い手不足を肌で感じていらっしゃるのではないでしょうか。
本記事では、地域課題解決型ビジネスにおける「担い手」をどのように定義し、育成・確保していくかについて、自治体と民間事業者が連携して取り組む具体的なアプローチを解説します。
地域課題解決型ビジネスにおける「担い手」とは
地域課題解決型ビジネスにおける「担い手」は、必ずしも専門的なビジネス経験を持つ人物だけを指すわけではありません。地域で活動する住民、NPOのスタッフ、地元企業の従業員、移住者、あるいは地域の若者など、多様な背景を持つ人々が担い手となり得ます。重要なのは、地域課題に対する問題意識を持ち、その解決に向けて行動を起こす意欲と、事業を推進するために必要となる基本的な能力やスキル(計画力、実行力、コミュニケーション能力、課題解決能力など)を備えている、あるいはそれらを習得しようとする姿勢です。
自治体職員としては、まず地域内にどのような潜在的な「担い手候補」がいるのかを把握することから始める必要があります。既存の市民活動団体、ボランティア団体、地元企業、大学、さらには地域のキーパーソンと呼ばれる人々との関係性を構築し、彼らの関心やスキルセットを理解することが第一歩となります。
担い手育成に向けた官民連携アプローチ
担い手の育成は、行政だけで、あるいは民間だけで完結するものではありません。それぞれの強みを活かした官民連携が効果的です。
1. 必要な能力・スキルの明確化と育成プログラムの設計
地域課題解決ビジネスに必要な能力やスキルは、事業の性質によって異なります。例えば、高齢者支援であれば傾聴力や共感力、地域産品開発であればマーケティングや販路開拓の知識などです。
- 自治体の役割: 地域の課題やニーズを把握し、それに合致する事業で求められるスキルセットを整理します。
- 民間の役割: ビジネスの実践的なノウハウや、特定の分野(IT、デザイン、経営、ファシリテーションなど)の専門的な知識を提供します。教育研修事業の実績を持つNPOや企業との連携が考えられます。
- 連携アプローチ:
- 共同でのカリキュラム開発: 行政が地域の課題背景を提供し、民間が実践的なビジネススキルや専門知識の要素を盛り込む形で、座学と実践を組み合わせた育成プログラムを設計します。
- 講師・メンターのマッチング: 行政が募集や参加者の選定を行い、民間から適切な講師やメンターを紹介・派遣してもらう仕組みを作ります。
2. 実践機会の提供と行政によるサポート
座学だけでなく、実際に手を動かす機会を提供することが、スキル習得と同時に担い手のモチベーション維持につながります。
- 自治体の役割: 地域内で小規模な実証実験(プロトタイピング)の場を提供したり、行政が実施する事業の一部を委託したりする機会を創出します。
- 民間の役割: 自社の事業ノウハウを活用したOJTの受け入れ、インターンシッププログラムの提供、共同でのパイロット事業実施などが考えられます。
- 連携アプローチ:
- 「伴走支援」体制の構築: 育成プログラム修了後も、行政職員や委託を受けた民間の専門家(コンサルタント、コーディネーターなど)が、事業計画の具体化、資金調達の相談、行政手続きに関する情報提供など、継続的に伴走してサポートする体制を構築します。
- テストマーケティングの場提供: 行政が所有する公共空間の活用許可を円滑に進めたり、地域のイベントと連携したりして、担い手が自分のアイデアを地域で試す機会を提供します。
担い手確保・定着に向けた官民連携アプローチ
育成した担い手が地域で継続的に活動し、事業として自立していくためには、継続的なサポートと活動しやすい環境づくりが必要です。
1. 情報発信・魅力づけ
地域課題解決ビジネスの意義や活動の面白さを伝え、新たな担い手候補を発掘します。
- 自治体の役割: 広報誌、公式サイト、SNSなどを活用し、育成プログラムの告知や、既に活動している担い手や事業の事例紹介を行います。
- 民間の役割: 自社のネットワーク、ウェブサイト、イベントなどを活用し、活動の魅力を発信します。クラウドファンディングサイトなどを活用した資金調達と一体での情報発信も有効です。
- 連携アプローチ:
- 合同での説明会・イベント開催: 行政と民間が協力して、地域内外に向けた説明会や交流イベントを開催し、担い手候補との接点を増やします。
- 「見える化」とストーリー発信: 行政と民間が連携し、担い手の活動内容や地域にもたらす変化を分かりやすく「見える化」し、共感を呼ぶストーリーとして発信することで、新たな参加を促します。
2. 関係性構築・コミュニティ形成支援
担い手同士、あるいは担い手と地域住民・企業との横のつながりを強化することは、情報交換や新たな連携を生み出す上で重要です。
- 自治体の役割: 担い手向けの交流会やネットワーキングイベントを企画・開催します。活動拠点となるコワーキングスペースやシェアオフィスなどの整備も有効です。
- 民間の役割: 既存の地域コミュニティやビジネスネットワークとの連携を橋渡ししたり、ファシリテーション能力を活かして交流を促進したりします。
- 連携アプローチ:
- 官民共同の交流プラットフォーム運営: 行政と民間が協力して、オンライン・オフラインでの交流プラットフォームを運営し、担い手が必要な情報やサポートにアクセスしやすい環境を作ります。
3. 事業化・継続化へのサポート
アイデアを事業として自立させ、継続していくための具体的なサポートが必要です。
- 自治体の役割: 補助金制度の設計・運用、創業融資制度の紹介、法制度や行政手続きに関する情報提供・相談対応を行います。
- 民間の役割: ビジネスプラン作成支援、資金調達(融資、出資、クラウドファンディング等)のノウハウ提供、販路開拓支援、経営に関するコンサルティングなどを提供します。
- 連携アプローチ:
- 専門家チームによる「伴走支援」: 行政職員に加えて、中小企業診断士、税理士、弁護士、デザイナー、ITエンジニアなど、多様な専門性を持つ民間人材からなるチームを結成し、担い手のニーズに応じた伴走支援を行います。このチームは、行政が外部委託する形や、地域内の専門家との連携協定を結ぶ形などが考えられます。
- 資金調達のマッチング支援: 行政が地域の金融機関や投資家(インパクト投資、社会的投資を検討する主体など)との関係性を構築し、担い手とのマッチングを支援します。
官民連携で担い手育成・確保を進める上での考慮事項
これらのアプローチを進める上で、自治体職員として考慮すべき点がいくつかあります。
- 役割分担と責任範囲の明確化: 行政と民間、それぞれの役割と責任範囲を事前に明確に合意しておくことが重要です。曖昧なまま進めると、後々のトラブルの原因となり得ます。契約書や協定書でしっかりと定めるようにしましょう。
- 行政内部の合意形成: 新たな育成プログラムや連携体制を構築するには、人事、財政、関係部署など、庁内の複数の部署との調整や上層部の理解・合意が不可欠です。地域課題解決の重要性と共に、担い手育成が地域経済活性化や持続可能なまちづくりに貢献することを具体的に説明し、庁内を巻き込んでいく努力が必要です。
- リスク管理: 育成した担い手が期待通りに成長しない、事業が軌道に乗らないといったリスクはつきものです。全ての事業が成功するわけではないことを前提に、リスクを最小限に抑えるための計画(例えば、小さく始めるプロトタイピング支援など)や、失敗した場合の次に繋げるための評価・改善プロセスをあらかじめ考慮しておく必要があります。
- 成果指標(KPI)の設定: 育成・確保の取り組みがどの程度効果を上げているのかを測定するために、具体的な成果指標(例:育成プログラムの参加者数、事業化に繋がった件数、創出された雇用数、地域住民の満足度向上など)を設定し、定期的に評価を行うことが重要です。これにより、取り組みの改善点を見つけ、関係者への説明責任を果たすことができます。
まとめ
地域課題解決型ビジネスを持続可能なものとするためには、「担い手」の存在が鍵となります。担い手不足という課題に対し、自治体職員は自らのリソースだけでなく、民間の持つ専門性やノウハウを積極的に活用する「官民連携」のアプローチを取るべきです。
育成プログラムの共同設計、実践機会の提供、伴走支援、情報発信、コミュニティ形成支援、そして事業化・継続化サポートなど、連携できる範囲は多岐にわたります。これらの取り組みを通じて、地域で自ら考え行動できる人財を育て、確保し、地域課題解決の新たな担い手として活躍してもらうことが、持続可能な地域づくりの推進に繋がるでしょう。
まずは、地域の潜在的な担い手候補に目を向け、彼らに関心を持つ民間のプレーヤー(NPO、企業、専門家など)と対話を開始することから始めてみてはいかがでしょうか。